#FGO 夏イベント「カルデア・サマーアドベンチャー!」、第九節「コロンブス大戦」にて、清少納言(水着バージョン)がマンドリカルドくんへ向けた罵倒「ワカメ野郎!」は、『枕草子』を踏まえるとなかなか深いとわかるフレーズなので、以下、知っている範囲で解説いたします。長いのでミュート推奨。
— たられば (@tarareba722) 2021年09月19日
「清少納言とワカメ」といえば、『枕草子』三巻本(新潮日本古典集成)第79段「里にまかでたるに」での、元夫・橘則光との有名なやり取りが真っ先に浮かびます。以下、私訳。
あれはわたし(清少納言)が里下がりしている頃。来客があっても応対できず、申し訳ないから周囲に居所を告げずにいました。
— たられば (@tarareba722) 2021年09月19日
そんな時(離婚した元夫の)橘則光がやってきて、世間話として、
「昨日、宰相の中将(藤原斉信/貴公子であり清少納言とは宮中和歌バトルのライバル。この頃は政敵でもあった。則光の上司)から、清少納言の居場所、お前だったら知っているだろ、と聞かれて困ったよ。しつこく聞いてくるものだから、— たられば (@tarareba722) 2021年09月19日
(口止めされているので)いや本当に知らないんですと言いながら、目の前にたまたまワカメ料理が置いてあったので、それを口一杯ほおばってなんとかごまかしたんだ。」
と言う。
「絶対に言いふらさないでくださいね」と念を押して、何日か経ったある日、夜中に則光からの使者が手紙を持ってきた。— たられば (@tarareba722) 2021年09月19日
その手紙には「明日、斉信さまと会合があって、また”清少納言はどこに居るんだ”と詰められるに決まってる。もう隠し通せないので居場所を教えちゃってもいいですか。あなたの仰るとおりに従いますので…」と書かれていたので、返事は書かずに、ワカメを一寸ばかり紙に包んで使者に持ち帰らせました。
— たられば (@tarareba722) 2021年09月19日
後日、再び則光がやってきて、「あの日はひどいめにあったよ。きみ(清少納言)に会わせろという斉信さまをのらりくらりといろんなところへ連れまわして、居ないじゃないかと責められました。ところで、どうして手紙に返事をくれずワカメなんて送ってきたの? 誰かへの返事と間違えたの?」と話す。
— たられば (@tarareba722) 2021年09月19日
「ぜんぜん分かっていなかったんだなあ」と思いつつ、筆をとって、
「かづきする 海女のすみかをそことだに ゆめいふなとや めを喰わせけむ」(世間から身を隠している(まるで水に潜る海女のように)わたしの居所を、どこそこ(底)とさえ、決して言うなと目くばせ(和布(め)くわせ)したんでしょ)— たられば (@tarareba722) 2021年09月19日
と和歌を書いて(則光に)差し出すと、「わー、私は和歌は苦手なんです。読みませんからね!」と言って逃げ帰ってしまいました。
このように、則光とは(離婚してからも)親しく付き合ってお互い後ろ盾になっていたりしたのですが、なんともなしに疎遠になっていた頃、また則光から手紙が届きました。— たられば (@tarareba722) 2021年09月19日
「あなた(清少納言)になにか不都合なことがあったら、知らせてくださいね。あなたとは(離婚しても)兄と妹のような関係でいようと約束した仲で、その気持ちは変わっていません。うわべでは気になさらなくても、何かあったら、ああ兄の則光がいるなと思い出してください。」と書かれていました。
— たられば (@tarareba722) 2021年09月19日
そこで、則光は普段から口癖のように「私を好きでいてくれる女性は、決して和歌なんて詠んで寄越してはならない。わたしに和歌を詠みかけてくる人はすべて敵です。歌なんて、いよいよもうお別れです、という時にこそ詠んで寄越せばいいのです。」と言っていたなと思い出し、その手紙の返事として、
— たられば (@tarareba722) 2021年09月19日
「崩れよる 妹兄の山の中なれば さらに吉野のかはとだに見じ」(崩れ始めた二人の仲ですから、もうあなたとは仲良くはできません。もし(吉野川の両岸に相対する)妹山と兄山が互いに崩れれば、吉野川は土砂に埋もれて川(彼は)と見ることができないように)と、和歌だけを書いて返しました。
— たられば (@tarareba722) 2021年09月19日
この返事も(和歌が書かれているので)見ずじまいだったか、(則光からの)返事はなく、そのまま疎遠になりました。
その後、則光は叙爵して(出世して)遠江介に任ぜられ、会う機会も仲直りする機会もなく、縁が切れたままでしたね。
(以上、私訳ここまで)— たられば (@tarareba722) 2021年09月19日
さて。
この章段は、研究者や『枕草子』を書いた作家の間でも、清少納言の執筆動機や立場の解釈が分かれる部分です。
第一の解釈は、「清少納言は則光の鈍感具合に愛想が尽きて、それでも空気を読まず親しげに手紙を寄越してくるのが我慢できず、和歌を送って縁を切った」という説(萩谷朴先生など)。— たられば (@tarareba722) 2021年09月19日
「困ったことがあったらいつでもぼくを頼ってね」と言ってくる別れた元夫に対して、即座に(その元夫が「絶縁したくなったら詠んで」と言っていた)和歌を作って送り返すところなど、実に(『枕草子』でたびたび描かれる利発で勝気でさっぱりした)清少納言先輩らしい振る舞いであるとも言えます。
— たられば (@tarareba722) 2021年09月19日
そのいっぽうで、「凋落の一途をたどる自分(清少納言)と中宮定子陣営から、きっぱりと手を切らせるため、わざと縁切りの和歌を送った」という説(山本淳子先生など)があります。この清少納言と則光とのやり取りがいつなのかは諸説ありますが、長徳二~四年(西暦996~998年)頃という説が有力です。
— たられば (@tarareba722) 2021年09月19日
この頃、定子の父親である関白・藤原道隆が亡くなり(995年没)、その弟である道長が実権を握って徐々に勢力を強めていた時期でした。上記章段で清少納言に会いたがっていた藤原斉信は、道長に取り入って出世を果たした人物であり、また前述のとおり則光とは少なからぬ縁がある上司でもあります。
— たられば (@tarareba722) 2021年09月19日
また、則光と清少納言の間には橘則長という息子がいます(この頃、満13歳頃)。清少納言は「このまま自分と親しく付き合っていると則光や則長の政治的立場が危うくなる」と考えたのではないか。さらに政治背景を考えると、則光のやや不自然な「いつでも頼ってほしい」という手紙の理由も見えてきます。
— たられば (@tarareba722) 2021年09月19日
斉信が清少納言を執拗に探していたのは、敵情視察だったか道長方へのスカウトだったか。そして則光は則光で清少納言の政治的危機を察し、思いやり、気遣い、清少納言はそれらを見越して自分から身を引いたのでは(事実、則光も則長も、この清少納言との絶縁後、受領を歴任して達者に過ごしています)。
— たられば (@tarareba722) 2021年09月19日
さてFGOに戻って(長くなってすまん)。
本シナリオでの、なぎこさんのセリフが上記どちらの解釈に基づいているかはわかりません(学者ですら解釈が分かれている話だし)。ただ『今昔物語集』や『宇治拾遺物語』では豪胆で武勇に優れた人物として描かれる橘則光は、元妻である清少納言の筆に載ると、— たられば (@tarareba722) 2021年09月19日
気弱で朴訥で、「雅」などいまいち理解できず、戸惑いながら気遣いばかり考える人物として描かれています。そうした元夫へ送った「ワカメでも食べててね」という手紙と、本シナリオでなぎこんさんがマンドリカルドくんへ向けた「ワカメ野郎!」という罵倒、どこか響きあっている気がするわけです。
— たられば (@tarareba722) 2021年09月19日
もちろん、FGOのなぎこさんに「それ、どういう意味なの」と聞いても、絶対に本当のところは教えてくれなさそうですけれども。いやあ、FGO、たのしいですね。(了
— たられば (@tarareba722) 2021年09月19日
一点、デリートミスです。
× >この章段は、研究者や『枕草子』を書いた作家の間でも、清少納言の執筆動機や立場の解釈が分かれる
〇 >この章段は、研究者や『枕草子』を現代語訳する作家の間でも、清少納言の執筆動機や立場の解釈が分かれる
『枕草子』を書いたのはなぎこさんや…。。。
— たられば (@tarareba722) 2021年09月19日
これ気付かんかったわ………そっか旦那とのやり取りにかけてワカメ………
— こう@死 (@k_desrock) 2021年09月20日
うーむなるほど。たらればさんの解釈はいつもためになる。あのワカメ野郎発言は、単に型月作品繋がりでのものだと思っていたが(笑)なぎこさんがそんなの知るわけないよな( ̄▽ ̄;) >RT
— ぽんせ松本XV (@pomse_matu) 2021年09月20日
マンドリカルドとなぎこさんの絡み最高だったね…
あのワカメ野郎にもこんな背景があるなんて、これだからFGOはやめられないんだよなぁ…
水着なぎこさん絶対に引く— おさかな (@ho29877) 2021年09月20日
急に出たワカメ野郎にそんな背景あると思わなかった
— さっ (@sassa_n) 2021年09月20日
アッワカメの元ネタそれだったんだ!
— あっぷる時雨 (@shigure0203) 2021年09月19日
おっ、たらればさんのなぎこさん語録解説だ
— キラバト (@Kirabat) 2021年09月19日
型月履修者はワカメ野郎と聞くと彼を間違いなく連想するからね・・・
— ゆきめさん@メガミの人 (@jings_sinki) 2021年09月19日
fgoでワカメというとどうしてもあっちを思い浮かべてしまうんだけど、ちゃんとなぎこさん所縁の罵倒語だよ〜って分かるの勉強になる そういう逸話全然知らないからな〜
— 久礼野ぺん (@kurenopen) 2021年09月20日
少納言パイセンガチ勢の解説すげぇ。ワカメ野郎ひとつ取っても意味があるなぎこさんすげぇよ。
— 土取那智 (@katanachi) 2021年09月19日
清少納言のこのエピソード好き